1.8.2 テキストをフォーマットする

このセクションでは、\markup モード特有の構文を用いた基本的かつ高度なテキスト フォーマットについて説明します。


テキスト マークアップの導入部

\markup ブロックは “マークアップ モード” と呼ばれる拡張可能な構文でテキストを刻譜するために用いられます。

マークアップ構文は LilyPond の通常の構文と同様です: \markup 表記は波括弧 { … } で囲まれます。単語 1 つが最小の表記と見なされるため、波括弧で囲む必要はありません。

シンプルな “引用符で囲まれたテキスト” 指示とは異なり、\markup ブロックは、バックスラッシュ \ を用いて挿入されるネストされた表記やマークアップ コマンドを保持することができます。そのようなコマンドは直後の表記にのみ影響を与えます。

a1-\markup intenso
a2^\markup { poco \italic più forte  }
c e1
d2_\markup { \italic "string. assai" }
e
b1^\markup { \bold { molto \italic  agitato } }
c

[image of music]

また、\markup ブロックは引用符で囲まれたテキスト文字列を保持することがあります。そのような文字列は最小のテキスト表記として扱われます。そのため、任意のマークアップ コマンドや特殊文字 (\# など) は、テキストのフォーマットに影響をあたえることなしに、そのまま (逐語的に) 譜刻されます。ダブル クォーテーション自体は、それ自体の前にバックスラッシュを置くことによって譜刻されます。

a1^"\italic markup..."
a_\markup { \italic "... prints \"italic\" letters!" }
a a

[image of music]

表記をばらばらなものとして扱うには、単語のリストをダブル クォーテーションで囲むか、前にコマンドを置く必要があります。マークアップ表記の定義の仕方は、表記の配置のされ方 – 垂直に中央揃えして積み重ねられる、水平に並べられる – に影響を与えます。以下の例では、2 番目の /markup 表記は 1 番目の表記と同じように扱われています:

c1^\markup { \center-column { a bbb c } }
c1^\markup { \center-column { a { bbb c } } }
c1^\markup { \center-column { a \line { bbb c } } }
c1^\markup { \center-column { a "bbb c" } }

[image of music]

マークアップを変数に格納することができます。そのような変数は直接音符にくっつけることができます:

allegro = \markup { \bold \large Allegro }

{
  d''8.^\allegro
  d'16 d'4 r2
}

[image of music]

@ref{Text markup commands} に \markup 特有のコマンドの徹底したリストがあります。

参照

記譜法リファレンス: @ref{Text markup commands}

コード断片集: Text

インストールされているファイル: ‘scm/markup.scm

既知の問題と警告

マークアップ モードの構文エラーは混乱しやすいです。


フォントとフォント サイズを選択する

マークアップ モードでは、基本的なフォント切り替えがサポートされています:

d1^\markup {
  \bold { Più mosso }
  \italic { non troppo \underline Vivo }
}
r2 r4 r8
d,_\markup { \italic quasi \smallCaps Tromba }
f1 d2 r

[image of music]

文字のサイズもいくつかの方法で変更することができます:

以下の例は、これら 3 つの方法の使用例です:

f1_\markup {
  \tiny espressivo
  \large e
  \normalsize intenso
}
a^\markup {
  \fontsize #5 Sinfonia
  \fontsize #2 da
  \fontsize #3 camera
}
bes^\markup { (con
  \larger grande
  \smaller emozione
  \magnify #0.6 { e sentimento } )
}
d c2 r8 c bes a g1

[image of music]

テキストを下付き文字あるいは上付き文字として譜刻することができます。デフォルトでは、それらは小さなサイズで譜刻されますが、通常サイズにすることもできます:

\markup {
  \column {
    \line { 1 \super st movement }
    \line { 1 \normal-size-super st movement
      \sub { (part two) }  }
  }
}

[image of music]

マークアップ モードは代わりのフォント ファミリを選択するための簡単な方法を提供します。他を指定しないかぎり、デフォルトの Serif フォント – ローマン体 – が自動的に選択されます。以下の例の最後の行では、最初の単語と 2 番目の単語はまったく同じです。

\markup {
  \column {
    \line { Act \number 1 }
    \line { \sans { Scene I. } }
    \line { \typewriter { Verona. An open place. } }
    \line { Enter \roman Valentine and Proteus. }
  }
}

[image of music]

新たな強弱記号手動の繰り返し記号 言及されているように、番号や強弱記号など特定の項目に用いられるフォント ファミリの中にはすべての文字を提供しないものもあります。

単語の中で使用されると、フォント切り替えやフォーマット コマンドの中には望まない空白を作り出すものがあります。これはテキスト要素をつなげることによって容易に解決できます:

\markup {
  \column {
    \line {
      \concat { 1 \super st }
      movement
    }
    \line {
      \concat { \dynamic p , }
      \italic { con dolce espressione }
    }
  }
}

[image of music]

フォント に フォント切り換えとフォントのカスタム コマンドの徹底したリストがあります。

フォント で説明されているように、カスタム フォント セットを定義することも可能です。

定義済みコマンド

\teeny, \tiny, \small, \normalsize, \large, \huge, \smaller, \larger

参照

記譜法リファレンス: フォント, 新たな強弱記号, 手動の繰り返し記号, フォント

コード断片集: Text

内部リファレンス: TextScript

インストールされているファイル: ‘scm/define-markup-commands.scm


テキスト揃え

このサブセクションでは、マークアップ モードのテキストを配置する方法について議論します。 オブジェクトを移動させる で記述されている構文を用いて、マークアップ オブジェクト全体を移動させることも可能です。

マークアップ オブジェクトの揃え方はいくつかあります。デフォルトでは、テキスト指示はそのテキストの左端で揃えられます: 以下の例では、最初のマークアップと 2 番目のマークアップの揃えられ方はまったく同じです。

d1-\markup { poco }
f
d-\markup { \left-align poco }
f
d-\markup { \center-align { poco } }
f
d-\markup { \right-align poco }

[image of music]

水平方向の揃え方は、数値を使って、微調整することができます:

a1-\markup { \halign #-1 poco }
e'
a,-\markup { \halign #0 poco }
e'
a,-\markup { \halign #0.5 poco }
e'
a,-\markup { \halign #2 poco }

[image of music]

オブジェクトの中には揃えるためのプロシージャをそれ自身で持っているものがあり、それらは上記のコマンドでは影響を受けません。テキスト マーク の中の例で示されているように、そのようなマークアップ オブジェクト全体を移動させることが可能です。

垂直方向に揃える方法はもう少し複雑です。上で述べたように、マークアップ オブジェクト全体を移動させることが可能です。しかしながら、マークアップ ブロックの中にある特定の要素を移動させることも可能です。 マークアップ全体を移動させるには、移動させる要素の前に アンカ ポイント – もう 1 つのオブジェクト要素、あるいは不可視のオブジェクト要素 – を置く必要があります。以下の例では 2 つの場合を示しています。最後のマークアップはアンカ ポイントを持たず、それゆえ移動されません。

d2^\markup {
  Acte I
  \raise #2 { Scène 1 }
}
a'
g_\markup {
  \null
  \lower #4 \bold { Très modéré }
}
a
d,^\markup {
  \raise #4 \italic { Une forêt. }
}
a'4 a g2 a

[image of music]

コマンドの中にはテキスト オブジェクトの水平方向と垂直方向の両方の揃え方に影響を与えることができるものもあります。そのようなコマンドで移動させるオブジェクトの前にはアンカ ポイントを置く必要があります:

d2^\markup {
  Acte I
  \translate #'(-1 . 2) "Scène 1"
}
a'
g_\markup {
  \null
  \general-align #Y #3.2 \bold "Très modéré"
}
a
d,^\markup {
  \null
  \translate-scaled #'(-1 . 2) \teeny "Une forêt."
}
a'4 a g2 a

[image of music]

マークアップ オブジェクトには何行かのテキストが含まれる場合もあります。以下の例では、それぞれの要素あるいは表記はそれ自体の行に配置され、左揃えあるいは中央揃えされています:

\markup {
  \column {
    a
    "b c"
    \line { d e f }
  }
  \hspace #10
  \center-column {
    a
    "b c"
    \line { d e f }
  }
}

[image of music]

同様に、要素あるいは表記のリストの広がりが水平の行幅いっぱいを占めることがあります (要素が 1 つだけの場合、その要素はページの中央に揃えられます)。そのような表記は、今度は、複数行にわたるテキストや他の任意の表記を含むことができます:

\markup {
  \fill-line {
    \line { William S. Gilbert }
    \center-column {
      \huge \smallCaps "The Mikado"
      or
      \smallCaps "The Town of Titipu"
    }
    \line { Sir Arthur Sullivan }
  }
}
\markup {
  \fill-line { 1885 }
}

[image of music]

さらに、長いテキスト指示を自動的に行幅に合わせて折り返すことができます。そのようなテキスト指示は、以下の例で示すように、左揃えされるか両端揃えされます。

\markup {
  \column {
    \line  \smallCaps { La vida breve }
    \line \bold { Acto I }
    \wordwrap \italic {
      (La escena representa el corral de una casa de
      gitanos en el Albaicín de Granada. Al fondo una
      puerta por la que se ve el negro interior de
      una Fragua, iluminado por los rojos resplandores
      del fuego.)
    }
    \hspace #0

    \line \bold { Acto II }
    \override #'(line-width . 50)
    \justify \italic {
      (Calle de Granada. Fachada de la casa de Carmela
      y su hermano Manuel con grandes ventanas abiertas
      a través de las que se ve el patio
      donde se celebra una alegre fiesta)
    }
  }
}

[image of music]

@ref{Align} にテキスト揃えコマンドの徹底したリストがあります。

参照

学習マニュアル: オブジェクトを移動させる

記譜法リファレンス: @ref{Align}, テキスト マーク

コード断片集: Text

内部リファレンス: TextScript

インストールされているファイル: ‘scm/define-markup-commands.scm


マークアップ内部でのグラフィック記譜法

さまざまなグラフィック オブジェクトを、マークアップ コマンドを用いて、楽譜に付け加えることができます。

以下の例で示すように、マークアップ コマンドの中にはテキスト要素にグラフィックスで飾り付けることができるものがあります。

\markup \fill-line {
  \center-column {
    \circle Jack
    \box "in the box"
    \null
    \line {
      Erik Satie
      \hspace #3
      \bracket "1866 - 1925"
    }
    \null
    \rounded-box \bold Prelude
  }
}

[image of music]

コマンドの中にはテキストの周りのパディングを増やすことを必要とするものもあります。パティングの増加は @ref{Align} で徹底的に記述されているマークアップ コマンドを用いて達成できます。

\markup \fill-line {
  \center-column {
    \box "Charles Ives (1874 - 1954)"
    \null
    \box \pad-markup #2 "THE UNANSWERED QUESTION"
    \box \pad-x #8 "A Cosmic Landscape"
    \null
  }
}
\markup \column {
  \line {
    \hspace #10
    \box \pad-to-box #'(-5 . 20) #'(0 . 5)
      \bold "Largo to Presto"
  }
  \pad-around #3
      "String quartet keeps very even time,
Flute quartet keeps very uneven time."
}

[image of music]

テキストを持たないグラフィック要素やシンボルを譜刻することもできます。他のマークアップ表記と同様に、そのようなオブジェクトも組み合わせることができます。

\markup {
  \combine
    \draw-circle #4 #0.4 ##f
    \filled-box #'(-4 . 4) #'(-0.5 . 0.5) #1
  \hspace #5

  \center-column {
    \triangle ##t
    \combine
      \draw-line #'(0 . 4)
      \arrow-head #Y #DOWN ##f
  }
}

[image of music]

高度なグラフィック機能として、Encapsulated PostScript フォーマット (eps) に変換された外部画像ファイルをインクルードする能力や、ネイティブの PostScript コードを用いてグラフィックを直接に入力ファイルへ埋め込む能力があります。このような機能を使う場合、以下で示すように、描画サイズを明示的に指定することを推奨します。

c1^\markup {
  \combine
    \epsfile #X #10 #"./context-example.eps"
    \with-dimensions #'(0 . 6) #'(0 . 10)
    \postscript #"
      -2 3 translate
      2.7 2 scale
      newpath
      2 -1 moveto
      4 -2 4 1 1 arct
      4 2 3 3 1 arct
      0 4 0 3 1 arct
      0 0 1 -1 1 arct
      closepath
      stroke"
  }
c

[image of music]

@ref{Graphic} にグラフィック特有のコマンドの徹底したリストがあります。

参照

記譜法リファレンス: @ref{Graphic}, 編集者の注釈

コード断片集: Text

内部リファレンス: TextScript

インストールされているファイル: ‘scm/define-markup-commands.scm’, ‘scm/stencil.scm


マークアップ内部での音楽記譜法

マークアップ オブジェクトの内部で、さまざまな音楽記譜要素を楽譜に付け加えることができます。

音符と臨時記号はマークアップ コマンドを用いて入力することができます:

a2 a^\markup {
  \note #"4" #1
  =
  \note-by-number #1 #1 #1.5
}
b1_\markup {
  \natural \semiflat \flat
  \sesquiflat \doubleflat
}
\glissando
a1_\markup {
  \natural \semisharp \sharp
  \sesquisharp \doublesharp
}
\glissando b

[image of music]

他の記譜オブジェクトもマークアップ モードの中で譜刻することができます:

g1 bes
ees-\markup {
  \finger 4
  \tied-lyric #"~"
  \finger 1
}
fis_\markup { \dynamic rf }
bes^\markup {
  \beam #8 #0.1 #0.5
}
cis
d-\markup {
  \markalphabet #8
  \markletter #8
}

[image of music]

より一般的には、以下で示すように、使用可能な音楽シンボルはすべて個々にマークアップ オブジェクトに含めることができます。@ref{Feta フォント} に、音楽シンボルと音楽シンボル名の徹底したリストがあります。

c2
c'^\markup { \musicglyph #"eight" }
c,4
c,8._\markup { \musicglyph #"clefs.G_change" }
c16
c2^\markup { \musicglyph #"timesig.neomensural94" }

[image of music]

テキストではない図柄を譜刻するもう 1 つの方法が フォントの説明 で記述されています。この方法はさまざまなサイズの波括弧を譜刻する場合に有用です。

さらに、マークアップ モードは特定の楽器のためのダイアグラムをサポートします:

c1^\markup {
  \fret-diagram-terse #"x;x;o;2;3;2;"
}
c^\markup {
  \harp-pedal #"^-v|--ov^"
}
c
c^\markup {
  \combine
    \musicglyph #"accordion.accDiscant"
    \combine
      \raise #0.5 \musicglyph #"accordion.accDot"
      \raise #1.5 \musicglyph #"accordion.accDot"
}

[image of music]

そのようなダイアグラムは @ref{Instrument Specific Markup} でドキュメント化されています。

楽譜全体でさえもマークアップ オブジェクト内部でネストさせることができます。そのような場合、以下で示すように、ネストされる \score ブロックには \layout ブロックを含める必要があります:

c4 d^\markup {
  \score {
    \relative c' { c4 d e f }
    \layout { }
  }
}
e f |
c d e f

[image of music]

@ref{Music} に、音楽記譜法関連のコマンドの徹底したリストがあります。

参照

記譜法リファレンス: @ref{Music}, @ref{Feta フォント}, フォントの説明

コード断片集: Text

内部リファレンス: TextScript

インストールされているファイル: ‘scm/define-markup-commands.scm’, ‘scm/fret-diagrams.scm’, ‘scm/harp-pedals.scm


複数ページにわたるマークアップ

標準のマークアップ オブジェクトは分割することができません。しかしながら、 ある特定の構文は複数ページにわたるテキストを入力することを可能にします:

\markuplines {
  \justified-lines {
    A very long text of justified lines.
    ...
  }
  \wordwrap-lines {
    Another very long paragraph.
    ...
  }
  ...
}

[image of music]

この構文はマークアップのリストを受け付けます。受け付けるものは以下の通りです:

@ref{Text markup list commands} に、マークアップ リスト コマンドの徹底したリストがあります。

参照

記譜法リファレンス: @ref{Text markup list commands}, @ref{New markup list command definition}

コード断片集: Text

内部リファレンス: TextScript

インストールされているファイル: ‘scm/define-markup-commands.scm

定義済みコマンド

\markuplines


他の言語: English, deutsch, español, français

LilyPond — 記譜法リファレンス

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