4.1.4 調整手段

\override コマンド

我々はすでに コンテキスト プロパティを変更するエングラーバを追加 / 削除するコンテキスト のプロパティを変更したり、エングラーバ を追加/削除したりするために使用するコマンド \set\with を見てきました。ここでは更に重要ないくつかのコマンドについて見ていきます。

レイアウト オブジェクト のプロパティを変更するためのコマンドは \override です。このコマンドは LilyPond の奥深くにある内部プロパティを変更しなければならないため、これまで見てきたコマンドのように単純な構文ではありません。どのコンテキストの中にあるどのオブジェクトのどのプロパティを変更しなければならないのか、そこにセットする新しい値を何にするのかを正確に知っている必要があります。どのようにこれを行うのかを見ていきましょう。

このコマンドの一般的な構文は以下のようなものです:

\override Context.LayoutObject #'layout-property =
#value

これは Context コンテキストのメンバである LayoutObject という名前のレイアウトの layout-property という名前のプロパティに値 value をセットします。

必要とされているコンテキストが明白であり、それが最下位レベルのコンテキストである – つまり、Voice, ChordNamesLyrics である – 場合、その Context は省略可能可能であり (そして通常は省略されます)、この後の例の多くでも省略します。後ほど、コンテキストを指定しなければならない場合について見ていきます。

これから後のセクションでは広範囲に亘るプロパティとそれらの値を扱います – プロパティのタイプ を参照してください。しかしながら、このセクションではフォーマットとコマンドの使用方法を示すために、容易に理解できるいくつかのプロパティと値だけを使います。

今や、レイアウト プロパティの前に置かれなければならない #' やプロパティ値の前に置かれなければならない # について心配する必要はありません。これらは常にそのような形式で正確に記述されなければなりません。これは調整では最も一般的に使用されるコマンドであり、この章の残りの部分の大半ではプロパティ (変更コマンド) の使用方法を示すための例を記述しています。ここでは符頭の色を変更する簡単な例を挙げます:

c4 d
\override NoteHead #'color = #red
e4 f |
\override NoteHead #'color = #green
g4 a b c |

[image of music]

\revert コマンド

一旦オーバライドされると、そのプロパティは再度オーバライドされるか \revert コマンドに遭遇するまで新しい値のままでいます。\revert コマンドは以下の構文を持ち、プロパティの値をオリジナルのデフォルト値に戻します。何度か \override コマンドが発行されている場合は、前の値に戻すわけではないということに注意してください。

\revert Context.LayoutObject #'layout-property

繰り返しますが、\override コマンドでの Context と同様に、多くの場合で Context を記述する必要はありません。以下の例の多くで、Context は省略されます。ここでは、最後の 2 つの音符の符頭の色をデフォルトに戻します:

c4 d
\override NoteHead #'color = #red
e4 f |
\override NoteHead #'color = #green
g4 a
\revert NoteHead #'color
b4 c |

[image of music]

\once 接頭辞

\override コマンドと \set コマンドには両方とも接頭辞 \once が付く可能性があります。これはその後に続く \override\set コマンドをその場一回限り有効にし、その後にそのプロパティの値をデフォルト値に戻します。上と同じ例を使って、以下のように 1 つだけの音符の色を変更することができます:

c4 d
\override NoteHead #'color = #red
e4 f |
\once \override NoteHead #'color = #green
g4 a
\revert NoteHead #'color
b c |

[image of music]

\overrideProperty コマンド

オーバライド コマンドには \overrideProperty というもう 1 つのフォーマットがあり、時々必要となります。完璧を期すためにここでこれに言及しましたが、詳細は Difficult tweaks を参照してください。

\tweak コマンド

利用可能な最後の調整コマンドは \tweak です。これは同じ音楽タイミングで発生するいくつかのオブジェクトのうち、1 つのオブジェクトだけを選択してプロパティを変更したい場合に使用します – 例えば、和音の中にある 1 つの音符のプロパティを変更する場合です。\override コマンドを使用すると和音の中にあるすべての音符に影響を与えます。一方、\tweak は入力ストリームの中でその \tweak のすぐ後にある要素 1 つだけに影響を与えます。

ここで例を挙げます。C メジャー コードの中にある真ん中の音符 (ミドル E) の符頭のサイズを変更したいとします。まず最初に、\once \override だとどうなるか見てみましょう:

<c e g>4
\once \override NoteHead #'font-size = #-3
<c e g>4
<c e g>4

[image of music]

このオーバライドは和音の中にあるすべての符頭に影響を与えています。これは和音の中にあるすべての音符が同じ タイミング で起こるためであり、\once のアクションは \override と同様に同じタイミングで起こる、指定されたタイプすべてのレイアウト オブジェクトへのオーバライドに適用されます。

\tweak コマンドはこれとは異なるやり方で処理されます。これは入力ストリームの中ですぐ後に続く要素にだけ作用します。しかしながら、これは入力ストリームから直接作成されるオブジェクト – 本質的に符頭とアーティキュレーション – にだけ効果を持ちます。符幹や臨時記号などのオブジェクトは後で作成されるため、この方法では調整できません。

それでは例に戻り、この方法で和音の真ん中の音符のサイズを変更します:

<c e g>4
<c \tweak #'font-size #-3 e g>4

[image of music]

\tweak の構文は \override コマンドの構文とは異なるということに注意してください。コンテキストもレイアウト オブジェクトも指定されません。実際、それらを指定するとエラーになります。これらは両方とも入力ストリームの中で後に続く要素によって示されます。さらに、イコール記号を使うべきではないということに注意してください。そのため、\tweak コマンドの一般的な構文は単純に以下のようになります:

\tweak #'layout-property #value

さらに、\tweak コマンドは一連のアーティキュレーションの中にあるただ 1 つのアーティキュレーションを変更されるためにも使用できます。ここに例を挙げます:

a4^"Black"
  -\tweak #'color #red ^"Red"
  -\tweak #'color #green _"Green"

[image of music]

\tweak コマンドはアーティキュレーション マークの前に配置する必要があることに注意してください。なぜなら、調整された表記がアーティキュレーションとして適用される必要があるためです。複数の向き記号 (^ または _) で上書きした場合、最後に適用される左端の記号が勝ち残ります。

さらに、\tweak コマンドは、同時に起こるネストされた連符記号のセットのうちの 1 つの見た目を変更するためにも使用されます。以下の例では、長い連符記号と 3 つの短い連符記号のうちの最初の連符記号が同時に起こります。そのため、\override コマンドだと両方の連符記号に適用されてしまいます。この例では、\tweak は 2 つの連符記号を区別するために使用されています。最初の \tweak コマンドは長い連符記号を音符の上に置くことを指定していて、2 番目の \tweak コマンドは最初の短い連符記号の数字を赤で描くことを指定しています。

\tweak #'direction #up
\times 4/3 {
  \tweak #'color #red
  \times 2/3 { c8[ c c] }
  \times 2/3 { c8[ c c] }
  \times 2/3 { c8[ c c] }
}

[image of music]

ネストされた連符が同時に起こらない場合、それらの見た目は \override コマンドを用いた通常通りの方法で変更されるかもしれません:

\times 2/3 { c8[ c c] }
\once \override TupletNumber
  #'text = #tuplet-number::calc-fraction-text
\times 2/3 {
  c8[ c]
  c8[ c]
  \once \override TupletNumber #'transparent = ##t
  \times 2/3 { c8[ c c] }
  \times 2/3 { c8[ c c] }
}

[image of music]

参照

記譜法リファレンス: The tweak command


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LilyPond — 学習マニュアル

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